令和3年度から5年度、鶴ヶ島市気候変動適応センターは、埼玉県環境科学国際センターが実施した環境省の事業である国民参加事業「屋内のフィールド調査による情報収集業務」に協力しました。その結果がまとまりましたので成果報告書を公表します。
調査内容
高齢者屋内熱中症予防に向けた屋内温熱環境の計測およびアンケート調査を通じて、屋内温熱環境と住民の暑さの感じ方の関係について情報を収集・分析し、高齢者の屋内熱中症予防対策の推進に向けた検討の一助とすることを目的として、実施しました。
令和3年度調査結果の概要
- 今年度の調査で、冷房器具使用時の体感において危険な部分は見られなかったものの、(1)体感や冷房器具の使い方が人の生活習慣や信条によって大きく異なること、(2)エアコンの使用習慣があってもエアコン使用前に危険な状態となっている場合があること、(3)熱すぎると実感していても冷房器具を使用しない人もいることが分かった。特に(2)と(3)については冷房器具を使用すべき温度の目安を提示し、自分の体感で判断することなく温湿度計に基づいて正しく室温を調整してもらうための普及啓発が必要である。
- 屋内の暑さ指数が25℃を超えているときに「涼しい」と回答されている方がいましたので、暑熱環境は暑いにもかかわらず、涼しいと本人が感じていることから熱中症の対策ができずにリスクが高いと考えられました。
ただ、今回の体感アンケートでは、日中と夜間それぞれの体感を回答いただいているのですが、日中や夜間にエアコンのON/OFFがなされて急激に暑さ指数が変化することがあります。
アンケートの体感がエアコンのON/OFFのどちらの時かは判別できなかったので、上記の熱中症のリスクについては厳密には判別できませんでした。
ただし、エアコンをONにする前に暑さ指数が28℃近く、室温が32℃近くに達する協力者がいたことから熱中症のリスクが高い時間帯が存在することは間違いないため、早めのエアコン使用を推奨していく必要があると考えられました。 - 今回協力いただいた方々は比較的しっかりと熱中症対策をされていました。
その方々でも室内の暑さ指数が28℃近くまでエアコンの使用を控えている状況がありました。
また直近の状況ですと電気代の上昇に伴い今年の夏もさらにエアコンの使用控えがある可能性があります。
エアコンの使用をされない理由につきましては、来年度に調査したいと考えております。
加えまして、エアコンを使用されない世帯の室内の温度状況をもう少し調査検討したいと考えております。
令和4年度調査結果の概要
- 体感や冷房器具(エアコンを含む)の使い方が人の生活習慣や信条によって大きく異なる
- 冷房器具を使用する習慣があっても、使い方によっては危険な状態となっている場合がある
- 暑いと実感していても冷房器具の使用を制限、または使用しない人がいる
- 平均室温と皮膚温の相関は低かった
- エアコン不使用者の多くは暑熱馴化していた一方、エアコン常時使用者は室内の環境が一定に保たれているため暑熱馴化はみられなかった
- エアコン使用有無に関わらず戸建ての方が全体的に外気温にともなって室温が上昇しやすい傾向にある
※特に2と3については冷房器具を使用すべき温度の目安および適切な使い方を提示し、自分の体感で判断することなく温湿度計に基づいて正しく室温を調節してもらうための普及啓発が必要である。
令和5年度調査結果の概要
今年度は「エアコンの使用有無」に焦点を当てて調査を行い、以下のことが新たに分かった。
- エアコンを使用すれば、全く使用しない場合に比べて屋内熱中症リスクが大幅に下がること。
- 従来から知られていたエアコンの除湿効果に加えて、居室と別の部屋で使用しても有効であること。また、設定温度を下げることで除湿効果が更に増す場合もあること。
- エアコンを使用しない理由は「寒いと感じるから」という協力者が大半であり、寒さを感じさせないエアコンの使い方がエアコン使用につながり得ること。
※特に3について、「寒いと感じている」高齢者がエアコンを使用することは期待しにくいが、熱中症リスクが高い屋内暑熱環境を本人が実感していないケースが多く、体感によらない温湿度計の値に基づいた室温・湿度のコントロールは必要である。高齢者の負担をなるべく減らしながら熱中症リスクを下げる方策として、
- 身体に直接エアコンの冷気を当てない、あるいはサーキュレーターによって室内の温度ムラを解消する等の気流管理、
- 居室と別室でエアコンを使用し除湿効果を得るまたは除湿機単体の使用と組み合わせて湿度を下げること、が挙げられる。また、居宅へ外部の熱エネルギーを入れさせない(庭の緑化や、すだれやカーテンによる日射の遮断、換気のよる熱の外部への放出)ことはエネルギー効率の観点から重要である。これらの方策を組み合わせたエアコンの使用を啓発する(必要に応じて光熱費補助などの施策も検討する)ことが高齢者のエアコン使用を喚起し、熱中症リスクを減少させるためには有用であると考えられる。